2013年にリニューアルオープンし、何かと話題となっていた佐賀県武雄市図書館に行ってきました。
建築を見る目的で行ったので、武雄市図書館の建築・設計を中心に雑感を書きます。
武雄市の指定管理者としてCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営しており、蔦屋書店と図書館、スターバックスのカフェが併設されています。
地方における図書館のあり方や公共施設と民間が混ざることでどうなるかかが気になっていて見てみたいと思っていました。
武雄市図書館の建築及び設計について
曲線と高さで魅せる本棚 シックな店舗デザインは蔦屋書店らしい
- 所 在 佐賀県武雄市武雄町大字武雄5304番地1
- 用 途 複合施設(図書館・カフェ・本屋)
- 延 床 3,803.12 ㎡
- 構 造 鉄筋コンクリート造,一部木造
- 基本設計 スタジオアキリ,CCC
- 実施設計 佐藤総合計画
- 施 工 五光建設
図書館に入った時に、やはりこの本棚の曲線と高さには圧倒されました。単純な構成ですが、そもそもの建物が良かった。
蔦屋書店は毎度思いますが、照明設計が上手い。本棚の高さと広がりにも注目してしまいますが、目線の高さにある照明の方に目線が移ってしまいます。そしてその先には、売りたい本や興味を持ちやすい軽めの本・雑誌などが陳列されている。
また多くの本棚には、間接照明が入れ込んであり、さりげなく本が目立つようにデザインされている。優しい照明なので、嫌な感じがしないんですよね。
普通の図書館だと、効率性が求められるので、上からの均一な光が好まれる傾向にあります。武雄市図書館では目線の高さに優しい照明を多くしたり、回遊性の高い本棚の設置されていて、ふらふら歩いていて楽しかったです。
2階から見ると、圧迫感を与えない什器がエントランス付近に並び、奥に行くと大きな本棚が並んでいるのがわかる。
店舗デザインを図書館に落とし込むのは、普段図書館に行かない層を呼び込むには良いのかもしれない。
開口部付近には、閲覧スペースとカフェスペースが併設されており、昼間は光溢れた場所で本を読めそう。夜に訪れたので、光の入り方などは見ることができなかったが、多くの学生が勉強に励んでいた。
平日の夜に行ったので、学生がほとんどでしたが利用客は地方の割に多かった。
スタバ×図書館のブックカフェは利用者にはありがたい
スターバックスコーヒーがあることで、カフェを飲みながら本を閲覧できる。本を読みながら、飲み物や軽食を食べられるのはありがたい。
本を読んでいると集中力が無くなったり小腹が空いたりするので、ちょっとしたものを口に入れられるだけで本に集中できるんですよね。
公共図書館で飲食禁止なのはわかるけど、本を借りて帰った人がどんな本の使い方してるかなんてわからないので、結局借りる場所で飲食禁止にしても一緒だと思う。公共物を大切に使おうという意識が重要。
また地方におけるこのシステムは、高齢者にとって非常に良いんじゃないかと思う。地方では高齢社会になりつつも、それを受容できる施設が潰れたりしているのを地方公務員時代に目撃していた。
カフェと軽食が取れることで、長時間いることが出来るし、外に出たり、人との交流のきっかけになる。
武雄市図書館の問題・批判について
この問題について多くを語れるほど調べてもないし、意見を持っているわけでは無いのですが個人的雑感。
曲線と高さの本棚があれば、どうしてもアスプルンドの名建築ストックホルム市立図書館を思い出してしまう。行ったことは無いのですが、ストックホルム市立図書館は本棚と本に囲まれた空間で、同時にいくつも出入り口があり、本を探す検索性が優れているようにみえる。
武雄市図書館は、曲線と高さの本棚を魅せるために長い廊下(キャットウォーク)がある。ここが利用者の動線から考えてみると冗長で長く使いづらい。
初めて来た人にとっては、景色を眺められて良いのだが、何度も通う利用者としては借りたい本がここにあると動線上階段から遠いので不便さがつきまとう。
上の方はフェイクの本だが、2mより高い位置に読める本がある。この通路の幅で高い部分の本を取るのは、ちょっと怖いなという感覚があった。
10年以上前の資格試験用の本やHow to本の選書問題については、ちょっとどうしようも無いなと思いますが、指定管理の問題を考える上で避けられない問題で、行政側も介入すべきポイントだと思う。もちろんかなり批判が出て、対応されたようです。
市民にとって有益になる本が図書館にあるべきだというのは真っ当で正しいのだが、公平という問題を疑うなら、図書館利用者のリクエストに図書館が応え、図書館をよく利用する人だけが得している側面もある。図書館の選書を考える上でずっと付きまとう問題でしょう。
閲覧スペースの多さは利用者満足に直結する。
細かい問題点は多々ありますが、僕個人としては、シンプルにこの図書館が羨ましいなと思った。単純に入った時に良い空間だと思えたし、本を読みながら過ごしたいと思えました。近くにあったら通うこと間違いないでしょう。
僕は地方出身というのもありますが、図書館というと求める本がなくて、ゆっくり読める場所が無いというイメージ。大学図書館や規模の大きい図書館を知ってから、図書館のありがたさに気づきました。
武雄市図書館は、スタバのカフェ・蔦屋書店という大きなコンテンツがありますが、何より閲覧スペースが多くてゆったり本を読めそうな雰囲気が良かった。以前あったTSUTAYAのCD・DVD貸し出しスペースは、広い閲覧スペースになっています。
閲覧スペースはいくつかあり、人の流れがある本棚に近い閲覧スペース、本棚から遠く静けさに満ちた閲覧スペースがあったりと用途によって閲覧スペースを使い分けられるのも良かった。
選書や運営費などのコントロールする課題は山積みですが、なにはともあれこれからの地方の図書館、いや公共ブックカフェを考える上で一石を投じたのでは無いのでしょうか。そこには共感できるし、素直に良い場所だと思いました。
武雄市こども図書館の建築及び設計について
こどもが存分に遊んでいるのを想像できる武雄市こども図書館
- 所 在 佐賀県武雄市武雄町大字武雄5304番地1
- 用 途 児童図書館・カフェ
- 延 床 690 ㎡
- 構 造 鉄骨造,一部木造
- 設 計 佐藤総合計画
- 施 工 五光・栗原建設共同企業体
武雄市図書館の横に平成29年7月にオープンした武雄市こども図書館にも行って来ました。
武雄市こども図書館は、段差と柱を使って上手く空間分節されていて、こどもがはしゃぎ回りたくなりそうな所が盛り沢山。
細い柱の林立していて自然と目線が上に行くのと、こどもがここを回ったり、引っ付いたりするだろうなと想像。
覗き窓があったり、黒板があったり、遊び心に溢れてました。はしゃぎたくなるのをグッと堪えて建築観察。
前庭の芝生コーナーはイベントをしたり、こどもが遊び回れるコーナー。
軒天から内部の天井が同じに見えるので、大きな屋根の下にいるような感覚が強い。
階段や段差が椅子や本棚に。使い古された手法だが、芝生のようなクッションとも相まって良い空間。照明の感じも武雄市図書館の方と共通していて、優しく本に目がいく。
読み聞かせ会や紙芝居とかもやってそうな雰囲気。ちょっとしたイベントスペースにもなる。
こどもがぶつかりそうな柱には、クッションが設置されていました。絵本や児童書がかなり充実していたので、小さいお子さんがいる家庭にはありがたいと思う。
こどもの絵本サイクルは尋常じゃないらしく、大量の新しい絵本を読まされるらしい。(市役所先輩談)
こども図書館なので、開放感が高く、開口部が大きかった。壁面ほとんどがガラスで、ハイサイドライトも設置。昼間はかなり明るくなりそう。
はじめは柱の林立が目障りな感じだったが、ゆっくり歩いていると意外と良かった。視野を塞がれたり、開いたりが柱と本棚によってなされる。
まとめ
本屋はネットショップの蔓延によって息の根を止められつつあり、公共に侵食せざるを得ないのかもしれない。
地方は図書館という文化コンテンツの保存と閲覧性をいかに維持できるかという課題があります。
武雄市図書館がCCCと手を組み、地方図書館としては革新的な取り組みをしたと思います。
もちろん批判された部分について改善すべき点が多くありますが、これからの地方図書館の在り方の一つとして、ロールモデルになったんではないでしょうか。
図書館としてなら機能不全かもしれないが、公共ブックカフェと考えるなら良い場所だと思えます。